心臓がバクバクと脈を打っている。

もしかしたら、この男──と思ったところでそれ以上考えることをやめた。

今はそんな場合じゃない。



「……あなたが池谷?」



現状を理解するため思い切って声を発した。

いや、目の前の男が池谷ではないことくらい分かっている。

しかし知りすぎていては逆に怪しまれる。

こいつらにとって私はただの「若頭の女」なのだから。



「へえ、やっぱりある程度聞いてはいるのか」



ふと、外国人の男が影になって見えなかった場所から、ひとりの男が現れた。

徐々に周りの様子が見えてきて、自分が地下倉庫のような、窓ひとつない空間にいることに気がついた。

カビっぽい湿った匂いとタバコの匂いが鼻腔に広がった。



「俺が池谷だ。いやぁ、遠路はるばるどうも初めまして」



そうしてついに探し求めていた黒幕が姿を現した。