お腹いっぱい食べて、お風呂に入って――次の日、アガタが目覚めたのは昼近くで。しかもあれだけ食べたのに、起きた途端にお腹が鳴った。

「……すみません」
「いいんですよ。お風呂と睡眠のおかげで、目の下の隈も薄くなりましたし……逆に、朝ご飯を食べていないですしね? お昼は少し、お肉も食べてみましょうね」
「えっ!?」
「鶏肉の蜂蜜生姜焼きですよ」

 グウゥ……。
 コニーの言葉に、お腹の音が元気に返事をする。恥ずかしさに赤面すると、コニーは「今、焼いてきますね」と言って寝室を出ていった。

「……アガタ様」
「メル? おはよう……喋るの我慢してたよね、ごめんね?」
「それはいいんですが……昨日のアガタ様の呟きに、あの老婆が反応していて」
「呟き?」
「ヤツハシ、という言葉に」
「っ!?」

 前世の言葉に、ロラが反応していたことに驚く。そして驚きのあまり、小声で話す為か肩に乗ってきたメルが羽根で叩いてきていたことに気づくのに遅れた。

「そう、ヤツハシ……それは、異世界の言葉だろう?」
「……ロラ、さん」
「コニーが、昼食の支度をしている間に……そっちの喋る鳥についても、聞かせてくれるかい?」
「……はい」
「アガタ様!」
「大丈夫よ……それにメルにも、話さなくちゃだし」

 驚いたが、それよりもロラから『異世界』という言葉が出たことが気になる。だから観念し、バレたからと喋ることを隠さなくなったメルを宥めて、アガタは話し出した。
 自分が、エアヘル国の結界を維持していた聖女で――だが、婚約破棄された時に異世界人だったことを思い出し、精霊であるメルの力を借りて逃げてきたのだと。

「アガタ様……そうだったんですか」
「ごめんね、黙ってて」
「いえ……逆に、それだけショックを受けたということですよね? 逃げ出せて、本当に良かったです」
「その通りさ……なるほど。エアヘル国は『ブラックキギョウ』だったんだね」
「!? あの、どうしてその言葉を? あと、ヤツハシと……もしかして、ロラさんも?」

 一緒に話を聞いていたメルは怒らず、逆に気遣ってくれた。そしてロラもまた、納得したように頷いた。
 ヤツハシだけではなく『ブラック企業』まで出てきたのに、ロラもまた転生者かと思ったが――アガタの視線の先で、ロラは首を横に振った。そして、思いがけないことを言い出した。

「いや……あたし『は』違う。だが、初代語り部が異世界の、おそらくあんたと同じ異世界の、二ホンからの転生者だったんだ」

 それは代々、語り部にのみ伝えられてきて――それ故、まだ修行中のコニーは知らないのだとロラは言った。