「な、なんで、こんな広い部屋にひとりで住んでいるの…?見たところインテリアとか、生活用品すらロクにないし…」
30畳はあるのではないかと推測するリビングには黒いラグに小さなローテーブルがちょこんと置かれていて、あとはあとは壁掛けの大きなテレビがあるだけ。
観葉植物もなければソファーもない。
お金持ちが好きそうな訳のわからないオブジェとかも、ひとっつもない。
「引っ越してきたばかりだからな。それに、俺は物に興味がないんだ」
「…そうなんだ。じゃあなんでこんな広い部屋をーー…」
「結香と住むためだ」
「…は?」
「家具も家電も生活雑貨も結香の好きなものを揃えるといいぞ」
この人は思考回路がイッちゃっているらしい。
「わたし住まないよっ!?住むわけないじゃんっ!」
「なぜだ」
「なぜ…?なぜってそんなのっ…!」
決まっているじゃないーー!!
そう最後まで言えなかったのは碧に強く抱き締められたからーー。
「ちょっ…!あ、あおいっ…」
「結香…」
碧の吐息が、甘い声が、耳にジンッ…と響く。
「あっ…や…っ」
今まで味わった事がない熱い痺れに思わず声が漏れて身体をよじるも碧の腕の中からは解放されず、恥ずかしさと不安でじんわりと目が潤んだ。
「…そんなに、煽るなよ」
「なっ…!あ、煽ってなんか…っん!」
碧の眼が切な気に揺れたかと思うと、わたしの首筋に顔を埋め、少しするとチクリと首元あたりに痛みが走った。
それだけの行為が、わたしの身体を熱くさせる。
こんな感覚、知らない。



