「…来たばかりですみませんが、帰らせていただきます」
言うなり保健室を飛び出す。
「えっ、薮木さん…!!!」
保健医がわたしの名を呼んだけど、そんなのもう関係なかった。
走って走って、ローファーに履き替えることも無視して、上靴のまま外に飛び出し息が切れて走れなくなるまで走った。
「はっ…、はぁ、はぁ、はぁ…っっ!」
両手を膝に置いて乱れた呼吸を少しずつ整えて行く。
呼吸が整い始めたら今度はボタボタと涙が渇いたアスファルトに落ちる。
「ぅ…ふっ…!」
打たれ弱い自分が心底嫌になる。
あんなの言い返すことぐらい出来るようにならなきゃいけないのに。
でも、みんなの冷やかなのに嫉妬に燃えた目が怖くて堪らなかった。
久しぶりの登校だったのに。
両親の悪い噂が流れたけど、その時はあんな目を向けられることなかったのに。
…なにが「運命の出会い」だ。
最悪じゃないか。
わかってる。碧は悪くない。
決して悪くはないのに。
それでも、碧と関わらなかったらわたしはまた保健室にいる皆と前みたく笑い合えてたんじゃないかって、どこかで思ってしまう。
そんな風に考えてしまう自分が誰より大嫌いだと心の底から思った。



