わたしは首を横に振る。
「全くの事実無根。一体どこからそんな噂が出たのかもわからなくて…。でも、噂が噂を呼んで尾ひれに背びれもついて、母さんは心を病んでしまって今は遠く離れた病院に入院していて、父さんが付きっきりで看病している。…わたしたち姉弟は逃げるように自分達のこと知ってる人がいないだろうこの地へ越してきたの」
「…そうだったのか」
それだけ言うと碧は席を立ち、すぐ近くにある朔お気に入りの三人掛けソファーに移動すると、またわたしに「おいでおいで」してきた。
わたしはいつの間にか流れていた涙をきゅっと止めて、招かれるままに碧の真正面に立つ。
すると、クンッと弱い力で腕をひかれわたしはあっという間に碧の腕のなかに閉じ込められた。
「…結香」
愛おしむようにわたしの名を呼び、優しく、でも離さないとばかりに熱く抱き締めてくる。
「もう大丈夫だ。これからは俺がいる。俺が、お前を守るから」
「ど…っして…」
出逢ったばかりの貴方が、どうしてそこまで言ってくれるのーー?



