「琴葉!?」

気がつくと、私はピアノチェアの下にいた。

ガクガクと体が痙攣する。

口を閉じることもできず、息もまともにできなかった。

なに、この音は……?

激しい頭痛に襲われる。まるで耳に溶けた金属を流し込まれ、鼓膜が裂けるような痛みだ。

四年前に聴いた“死の旋律”とは、比べ物にならない。

それはまるで、全身がピアノを弾くことを拒んでいるようだった。

「また私は、立ち止まるの…?」

視界が霞み、目を閉じる。

……いいやもう。

このまま死んで、楽になりたいよ。

すると、目の前の景色が一瞬にして変わる。

「あれ? ここは…?」

フラフラと立ち上がる。

そこはワルシャワの大学ではなく、私が生まれ育った町だった。

空は藍色で、満月だ。どの家もクリスマスの飾りつけをしている。

「もしかして、赤い目の男の子の夢…?」

立ち尽くす私の横を、小さな女の子が走っていく。