タクシーで待ち合わせのレストランへ向かう。ポーランド語も少しはできるようになり、お出かけするのも今は苦ではなくなった。

窓から見た視界は、まだ真っ白だった。街頭を通る度、白い結晶が星のように光った。

行き際に、颯太君はイヤホンをしていた。

授業が流れる音声学習だ。字の読めない颯太君は、そうやって音だけで勉強している。

ワルシャワへ向かう飛行機の中でも、颯太君はずっと勉強していたらしい。

びっしりと、ひらがなが書かれた練習ノートも見せてくれた。

「ひらがなと数字は、なんとなく読めるようになってきたんだ」

そう笑う颯太君が、私にはまぶしかった。

医学部は、ディスレクシア向けのAO試験を実施している大学を受ける予定だ。

きっと狭き門だけど、颯太君なら受かる気がする。

将冴さんも、ニューヨークに置いてきた妹達に電話していた。

「俺が帰るまで迂闊に外歩くなよ! 夜はちゃんと鍵閉めろよな! 何かあったら管理人のウィリアムさんに頼るんだぞ!」

すごく心配そうな声だ。たしかに、ニューヨークの夜は危ない。

将冴さんは妹二人と暮らしながら、証券マンとして働いている。

私と一緒に暮らしていた頃とは、まったく違う生活を送っているのだろう。