コンクールには毎年決められた課題曲があり、その出来により順位が決まる。

石黒教授はピアノチェアに座り、鍵盤に指を触れる。

今日まで石黒教授にはどれほどお世話になっただろう。

共感覚の専門の医師までつけくれたうえに、教授自身のピアノの腕も、作曲技術もすさまじく、色々なことを教えてもらった。

「他の参加者だって、口には出さないだけで本当は分かってる。琴葉相手に勝てる見込みがないとな。分かったうえで、今も上っ面だけは優勝を目指してるのさ」

「そんなはずないでしょ…」

「どうかな? 俺自身、最初の頃はなんとか勝てそうだったが、今の琴葉には勝てる気がしない。てか、世界で少しでもお前に勝てる可能性のある人間なんて、三人もいないだろうな」

ペットボトルをゴミ箱に投げる。と、見事に外す。私は立ち上がる。

「コンディションは明日までには整えておけ。プロである以上、常に最高の演奏をしろ」

「はい…」

生返事をし、私は大学の屋上へと向かった。