近くにいた慧さんが私の髪をなでる。

「少し伸びたな。また伸ばすのか?」

「はい。前くらいには」

「俺は母親のピアノも好きだった。だが琴葉なら、きっと超えられる」

慧さんは微笑む。その顔はつきものが落ちたように優しかった。

「慧さんも頑張ってください」
「ああ」

麗於さんが「琴葉」と呼ぶと、180cmを越える身長を私の目線までかがみ、言った。

「これから話すことは、とても大切な話です。私の目を見て、よく聞いてください。そして決して、破らないと約束してください」