「この前の演奏を聴いたせいで、俺も俺の可能性に挑戦したくなった。例え才能では、お前に劣ろうともな」

他のお客さんがオーダーする。

「仕事だぞ」と慧さん。

私は「はい、ただいま!」と慧さんのテーブルを離れる。

慧さんは難しい挑戦をしようとしている。

けれどその表情は、前会ったときより、明らかに晴れていた。

「ありがとう、琴葉」

聞き違いかもしれないけど、慧さんがそう言った気がした。

私のピアノが、誰かを変えることができた。

もし、本当にそうなら、これ以上幸せなことって、あるだろうか。