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虫の知らせなんて嘘だ。本当に悲劇が起きるときは、いつだって前触れもなく訪れる。

例えば、スマホをいじってるとき、授業を受けているとき、なんとなくテレビを見ているとき。

私の場合、髪を乾かしているときだった。

『ねぇ、今度の発表会、二人は来てくれるよね?』

あの日、私は両親に言った。

『うーん、すまないが、その日はお父さんもお母さんも演奏会があって…』

『ごめんね。他の団員にも迷惑になっちゃうし、休むわけにもいかないの』

『えーっ!!』

二人は同じオーケストラに所属していた。お父さんは指揮者で、お母さんはピアニストだ。

お母さんはかつて、ポーランドの首都、ワルシャワで開かれた国際コンクールに日本代表で出演したほどの人だった。

けど、局所性ジストニアという病気になり、影を潜めてしまったらしい。

『最近いつもそうじゃん! たまには来てくれないと、私だって演奏したくないもん!』