箱崎桃にはヒミツがある

「先生、奢りますよ、焼肉。
 付き合ってくださったお礼に」

「お前が食いたいだけじゃないのか」

「……奢りますよ、肉」
と呟くように言いながら、桃は匂いにつられるように、フラフラとお店に入っていこうとする。

「待て、モデルッ。
 大丈夫なのか、肉、ガツガツ食ってっ」
と腕をつかまれた。

「大丈夫ですよっ。
 デザートに突入しなかったらっ」

「っていうか、お前、この服全部、焼肉臭くなるがいいのかっ」

「最近のお店、大丈夫ですってーっ」
と揉めているそんなときに限って、いつもは、ああ、よく似た人かな、という顔で行ってしまう通行人たちが、

「あれ、箱崎桃じゃない?」

「誰? 箱崎桃って」

「ほら、例の靴のCMの」
とか言って、足を止め始める。

 貢に手を引かれ、桃は急いで、その場から逃げ去った。