「梓、ちょっとこっちに」


不意に厚彦が逆側の腕を掴んで引っ張った。


「ちょっと、なに?」


梓はこけそうになりながら厚彦に近づいていく。


冷気が強くなり、吐き出す息が白くなった。


「ここに手を触れて」


厚彦が窓辺の下を指さしている。


一瞬で嫌な予感が浮かんできた。


「待って、ここってユキオさんがいるんじゃないの?」


梓にはどれだけ目を凝らしたって見えないけれど、ここにいるのは間違いない。


強い冷気を感じるし、なにより厚彦がいると言っているのだ。


「みんなが戻ってこないうちに、早く!」


せかされたって、幽霊に触れるなんて嫌だ。


咄嗟に逃げ出そうとしたが、厚彦が痛いくらいに腕を掴んでいるので逃げることもできない。


このままじゃ青あざができてしまいそうだ。


「わ、わかったから。ちょっと離してよ」


観念してそう言うと、ようやく力を緩めてくれた。