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あの日のこと。
楓莉は化粧をしていた。
楓莉は顔の造形が整っていてかわいいから、化粧なんかしなくても十分かわいいけれど。化粧をした楓莉には、いつもと違うかわいさがあった。
ソファに隣同士で座っていたはずが、不可抗力で、いつのまにか俺は真っ赤な顔をした楓莉をソファの上で押し倒す形になっていて。
あまりにも近くに顔があって、そのまま衝動的に───唇を重ねてしまった。
俺の独りよがりなキスだった。
ずっと我慢してきたのに、顔を真っ赤にして困ったように眉を下げる楓莉がかわいすぎて、止められなかった。
ハッと我に返り、楓莉に申し訳ないことをしたと、すぐに後悔した。
付き合ってないのに。
好きって、ちゃんと楓莉の口から言われてからって、決めていたのに。
また間違えた。
また、俺だけが、先走ってしまった。
「…なかったことにしていいから」
どうせ俺は、そんなことできっこないくせに。



