・
「……あの、荻原くん」
「どうしたの?永島さん」
荻原くんの裏の顔を見てしまったあの日から、しばらく経った。
それでも私はこの衝動を、抑えられない。
放課後の生徒会室で、もう帰ろうと荷物をまとめながら、荻原くんに声をかける。
にこにこ優しい瞳が私を見るけれど、彼の本心なんて1ミリも見えない。心の底でなにを考えているかもわからない。
「今日、一緒に帰りませんか?」
精一杯の勇気だった。
今まで一度も、そんなこと言ったことない。
だけどもう、我慢できなくて。
きみの素顔に、少しでも触れてみたくて。
食べてはいけないという禁断の果実に手を伸ばしたくなるみたいに。
だめだと言われたらやりたくなってしまう子供のように。それは抗えない衝動だった。



