愛海が黙ったまま教室の後ろに移動する。


あそこは__掃除用具が入っているはず。


そこから愛海がなにかを取り出して戻ってきた。


「ねぇ、これ何か分かる?」


「それは…」


チリトリだった。


【ち】から始まって【り】で終わるもの。


やっぱりすでに『ちりとり』を見つけていたんだ。


「それがなんだ?」


私の背を支えたまま、祐希が睨みつける。


「だからー!愛海と付き合えば、別のものにしてあげるって言ってるの」


そう言って、今度は教室の前に移動をして__。


「例えばほら、これとかさ」


黒板の隅っこから掴み取ったのは『チョーク』だ。


【く】で終わるものなら、楽に見つけられるだろう。


「お前、俺を脅してんの?」


「そんなんじゃないよー!これは交渉?てやつ」


「お前と付き合えば、チョークにしてくれんのか?」


「さすが祐希くん!話が早い!」


愛海が飛び上がって喜んでいる。


私は息苦しい中、それをぼんやりと眺めていた。


でもそれで、祐希が危ない目に遭わないならそれでいい。


だってそもそも…私は祐希と付き合っていないし。


私たちはただの幼なじみだ。


ただの__。