次の日、洸は何事もなかったかのように私の前に姿を現した。
「もっとこれからは優しくするよ、昨日はごめんね。好きすぎて仕方がなかったんだ、歯止めが効かなかった」
謝罪でも何でもない言葉を口にし、それからというもの、気持ち悪いほどに私に構ってきた。
帰る時はいつも必ず下駄箱で待ち構えていて「玲、帰ろうか」と笑みを浮かべるのだ。
その空間の亀裂のような笑みは恐怖でしかなく、私はただ衰弱していく自分の心を呆然と見つめるのみだった。
一人静かに帰りたい、干渉されたくない。
私は決まって無視を決め込み「一人で帰る」と横を通り過ぎて、靴を履き替える。
自己主張はしているのに、私には自我が存在しないみたいに扱い、思い通りにしようと思っている洸。
「俺が心配してるのに、断るのか? 俺が優しくしてあげるから、ちゃんということ聞きな」と勝手に手を握り、歩き出す。
洸は勝手に喋って、相槌なんて打たないのに気にしていないみたいだった。
帰り道、いつも考えていた。
私は何者だろう。
……もはや、人間じゃない気がした。
自分の意思表示も相手に伝わらない、主張する権利は失われていないはずで、
私はそれを疎かになんてしていないけど、通じない。
それはもう人形だろう。



