綾川くんが君臨する

びく、と指先が反応する。


……な、に、急に。
手が当たって……え?


触れた部分が一瞬で火照って、広がって、思考回路までもが焼き切れそうになったそのとき。


「ちょーっ、綾川なにやってんだよ手なんか握っちゃって!」


緊張で張り詰めた空気を切り裂くように、杉島くんのおどけた声が響いた。

遠のいていた喧騒が一気に戻ってくる。


そうだ、ここはふたりきりの放送室じゃない。

大勢のクラスメイトがいる、2年4組の教室内。


杉島くんの声を合図に、みんなの興味が一斉にわたしたちに移る。


「だって黒鐘が逃げようとするから」


今度はみんなにはっきり聞こえる声でそう言った綾川くん。


「ぎゃはは、やめてやれよ可哀想だろ! 咲綾チャンの心の中には風間きゅんがいるんだからさーっ」

「そうだそうだー!」


ワッと男の子たちが面白がってはやし立てる傍らで、女の子たちの中に流れる空気が少し引きつったのがわかった。

無理もない。

みんなの中で、綾川くんとわたしの組み合わせって、かなり珍しいはずだから。