綾川くんが君臨する


今日のあの事件以降、徹底的に視界に入れないようにしてた。


『風間くんと事故チューした女』として綾川くんの目に映ったのがつらい。

それが綾川くんにとっては『どうでもいい光景』なのを思い知らされるのがこわい。



「黒鐘は今日も放送当番なんだ」

「そうだけど、綾川くんは放送室に来たらだめ……ですよ」


「非常に残念なことに、おれは急用ができたので今日は放送室に行けないんです」

「そ、そうなんだ。こちらとしては非常に、喜ばしいことでありますね」



ほっとする裏で、ちょっと残念な気持ちが生まれたことを隠すように、そそくさと荷物をまとめる。


「じゃぁ、失礼します……」


さも急いでいるかのように勢いよく席を立って、足早に放送室へ向かおうと床を蹴った。


──の、だけど。


「黒鐘、なんか落とした」


教室の扉を抜ける寸前、そんな声が届いて。