「……え」
私は困惑した。え、聞き間違いかな。『私が頼まれた作業を綾瀬さんに譲ってほしい』って聞こえたような気がしたんだけど。
逆ならわかるけど、私には彼女が善意で人を手伝うような人間には見えない。つまり裏があるんだ。そしてそれは、れっきとした下心。
さっき先生に頼まれたのは、優等生の私と、もう一人の優等生、古茶くんなのだ。
……なるほど、読めた。
つまり、綾瀬さんは古茶くんとふたりきりになりたいんだ。と同時に、他の女が古茶くんとふたりきりになるのを阻止したいんだ、きっと。綾瀬さんが私なんかを敵対視するのかどうかは知らないけれど。
「うーん、それは悪いから……」
私は、やんわりと断るポーズをとる。
私が任されたことなのに、いい加減な仕事をされたら、それは私がやったことと誤解される。迷惑だ。
これで引いてくれればいいと、そう思ったのだけれど。
「気にしないで!私がやりたいの!」
……やっぱり。この手の女は、押せばいけると思っているのか押しが強い。人生思い通りにならなかったことなんてないんだろうな、なんて思ってしまう。
人の話を一切聞かないで自分の主張を無理やり通そうとする、関わりたくないタイプ。



