「岩倉さぁん」
「え」
名前を呼ばれ、私は一瞬石と化す。
普段から『優等生』として頼られることは多いので、名前を呼ばれただけではこんなに拒絶反応を起こすこともないのだけれど。問題はその声の主だ。
間延びした声で私を呼んだのは、やっぱり綾瀬由奈だった。
あなたが話したいのは私じゃなくて古茶くんなんじゃないの?
声かける相手間違ってない?
そう思ったけれど、あからさまに嫌そうな顔をしたりはしない。そんなヘマはやらかさない。
今の私は優等生モードだから。
「なに?」
できるだけ穏やかに、と自分に言い聞かせてそう返すと、綾瀬さんは困り眉のまま、
「あのね、岩倉さん、さっき先生に資料作り頼まれてたでしょ?それ、私と代わってくれない?」
と、両手を合わせた。



