「……お前、それ」


「あ」


古茶くんがなにかを言いかけたけれど、わざと声を出してそれをさえぎった。なんとなく、聞かないでいたほうがいい気がした。


「映画に……行くんだったね?」


思い出したように手を打ち、「行こっか」と、彼の手を握った。


「……っ。お前、実は今日熱あったりしねぇ?」


「なんでー?」


「いや、なんか……」


細くしなやかな指。けれどもちゃんと角ばっている古茶くんの手を、にぎにぎする。


ほのかに熱を孕んだ手。どっちの熱かはわからない。どっちか、なんて、たぶんそれほど重要でもない。そのまま、指と指をゆっくり絡めて。


「……私が男に見えるんだったら、古茶くんは男とデートしてるみたいに見えるってことになるね」


「……前言撤回。至って通常運転だわ」


「えー?」


古茶くんはそう言ってくたびれていたけれど。通常運転、通常運転かぁ。


これが通常運転だったら、私は年中狂ってることになっちゃうね。


「……ふふっ」


軽い足取りで、アンドゥトロワで歩き出す。



──だってさ、狂ってないとやってらんないよ。