ドラマのような捨てゼリフを残して、ぱたぱたと走り去る女の子。
その後ろ姿に向かって古茶くんは、上唇をぺろりと舐めて、
「騙されるほうがわりーんだよ、バ──カ」
そう、つぶやくように吐き捨てた。周りに聞こえてはいないと思っているんだろうけれど、私にはバッチリ聞こえてしまった。
うわぁ、ゲス顔だぁ。イケメンが台無しだ、って言ってやりたいけど、悔しいことに台無しにはなっていない。
もとの素材がいいもんね、中身は最悪だけど。腹立つなぁ。
「……で?なーに覗き見してんの、お前は?」
イライラを募らせていたら、不意に古茶くんはそう言った。
さっきの女の子はもういないし、『お前』なんて言ったら、このあたりではもうすでに、……私だけ。逃げ遅れたなぁ、これは。
「あ。やっぱ気づいてた?」
物陰に隠れていた私は、両手を軽く上げて降参ポーズをしてみせる。
よくよく古茶くんの顔を見てみると、ビンタのあとが赤く腫れている。そのせいで間抜けに見える。
「んんっ、お似合いだよ……ふはっ」
咳払いでごまかそうとしたけれど、こらえきれずに吹き出した。
「なに考えてんのか丸わかりなんだよ。お前も同じ顔にしてやろうか?」
「えー、暴力はんたーい」



