在りし日の妻が、自分が他界した後に独り身になる彼を案じて、後妻を迎えるように頼んだのではないかと推測していた。

それを遺言と思い、彼は無理をして新たな恋愛をしようとしていたのではあるまいか。

彼は王城園遊会で強引にレミリアを誘っておきながら、今日はブライアンとばかり話している。

気になっていたその理由がわかったような気がしていた。

(いざ迫ろうとしても、奥様の思い出が詰まったこの館では心が痛んで、葛藤が生まれるのかもしれない。バルニエ伯爵が今も苦しんでいるというのに、私ったら……)

エマは罪悪感を覚え、ドレスの胸元を握った。

(レミリア様をプッシュすることは、バルニエ伯爵に痛みを与える行為だったのかも。この世界が乙女ゲームであれなんであれ、私たちは現実としてこの世界で生きている。奥様を亡くした伯爵の傷も本物だ。もっとお気持ちを考えて差し上げるべきだった……)

初めて彼の苦しみを想像し、エマの平凡な瞳には涙が浮かんだ。

それを手の甲で拭いたら、肘をドアにぶつけてしまい、コンと音を立ててしまった。