この部屋も調度類はバラの装飾がされており、さらに色とりどりのバラの生花を生けた花瓶が三つも置かれていた。

バルニエ伯爵はひとりのようで、壁の肖像画に向けて話しかけていたようだ。

その横顔は哀愁に満ちている。

(もしかして、亡くなった奥様の肖像画? この部屋は奥様の部屋だったのかな……)

バルニエ伯爵の妻が亡くなった当時、エマは実家暮らしで、その情報はすぐに家族を通してエマの耳にも入った。

しかしながら夫妻に会ったこともなかったので、気の毒に思ってもその同情は薄く、他人事であった。

前世を思い出してからは、ゲームの設定だという考えが前面にくるようになってしまったので、さらに哀れみの程度は下がる。

けれども今、実際に気落ちしている様子のバルニエ伯爵を見ると、エマの胸には確かな悲しみが湧き上がった。

(バルニエ伯爵は今でも変わらず、奥様を愛しているのね。この五年、どんな思いで過ごしてきたのか。肖像画にこれでいいのかと話しかけていたけれど、もしかして本心ではレミリア様のことを……)