そう言って執事をリビングに帰すと、バルコニーに出て、きょろきょろと辺りを見回した。

「スモフキンさん、どこにいらっしゃいますか? こっちですよ」

月明かりの中、赤レンガの外壁に沿ってゆっくり飛んできたのは、綿毛の塊だ。

綿犬の移動速度は遅い。

短い四肢を一生懸命に動かしてこっちに来るその姿は、まさに愛玩動物である。

けれどもエマの前まで来ると、息を切らして、おじさんのような低い声で文句を言う。

「お主の妹から電話だ。まったく、ここまで飛んでくるのがどれだけ大変なことかわかっているのか。我輩の腹がブルブル震え続けて不快だぞ。早く出たまえ」

「は、はい。すみません!」

お腹の毛を掻き分けて液晶画面を露出させ、耳に当てる。

すると由奈にも苦情を言われた。

≪おっそい! こっちはもうすぐ朝だよ。夢から覚めちゃう≫

「ごめん。今、バルニエ伯爵邸で晩餐会イベントの真っただ中なの。まだ起きないでね」

≪雑談している暇はないから、ブルロズで新しくわかったことだけ伝えるね≫

由奈のプレイ状況は、バルニエ伯爵の晩餐会が終わって、次のイベントが発生したところであるそうだ。