「ポッピィちゃんったら、くすぐったいわ。ウフフ」

それを見て、エマは止めるべきかと迷う。

(ただの綿犬ではなく、百十五歳の魔法犬で、中身はオッサン。無邪気に甘えたふりをしているけど、正体を知っている私には、ただのスケベオヤジにしか見えない……)

「あの……」

スモフキンと呼ぶのは、ふたりきりの時だけという約束だ。

それで「ポッピィちゃん」と呼びかけたのに、歯をむき出されて睨まれた。

双子美女との甘いひと時を邪魔するなと言いたげだ。

(止めたら噛みつかれそう。どうしようかな。まぁ今に始まったことじゃないし、スケベでも綿犬だし、許そうか……)

エマは調理場のドアをそっと閉めて、廊下に出る。

レミリアのことはシンシアに任せるとし、二階へ上がり、先ほどまで双子令嬢が家庭教師と勉強していた部屋を換気して掃除をした。

それを終えて階段を下りたら、玄関ホールで外から戻ってきたメイドと鉢合わせた。

「今、午後の配達があったんです。ボウマンさんがお出かけなので、代わりに受け取りました。お嬢様たちにお手紙のようです」

ボウマンは六十歳になるこの館の執事だ。