熱っぽい瞳で彼を見つめてしまうと、ダグラスがクスリとし、頬に触れていた手を離した。

「そろそろ控室にお戻りを。私も職務に戻ります」

藍色の騎士服は体にぴったりと合ったサイズで、布地の上からでも伝わる逞しい筋肉美に目を奪われる。

腰に差した剣や胸元の翼竜のエンブレムには、使命に忠実な騎士魂を感じた。

背を向け、バラの生垣の奥へと歩き去る勇壮な彼を見送りながら、エマはうっとりとため息をつく。

(なんてかっこいいの。イケメンに優しく手当てされて、可愛いとまで言われた。まるでブルロズのヒロインになった気分……って、私はなにを喜んでいるのよ! ヒロインはレミリア様。ダグラスとの親密度を上げてほしいのもレミリア様なのに。ときめきシチュエーションを私が味わってどうする!)

自分が恋をしている暇はない。

そう戒めたエマは、頬をぴしゃりと叩いて気を引きしめ直した。

レミリアに迷惑をかけないようコソコソと引き返したが、誰に気づかれることもなく、無事に控室まで戻ることのできたモブ侍女であった。