見咎められてもおかしくないのに、ダグラス以外の誰もエマに声をかけなかったのである。

それがなぜかは、エマだけはよくわかっていた。

「警備の者らに、注意を与えなければならないな」

厳しい面持ちで独り言を呟いたダグラスに、エマは焦って言う。

「警備の騎士様も、使用人の方々も、私に気づかないのは仕方ないことなんです」

「どういうことですか?」

「ご覧の通り、私はものすごく平凡な容姿をしています。何度もお会いしている方に、顔と名前を覚えていただけないことも多々あります。存在感があまりにも薄いので、景色の一部として認識されたのかもしれません」

ダグラスは目を瞬かせてから、堪えきれないというように笑い声を漏らした。

「お恥ずかしい限りです……」

エマが顔を熱くすれば、「失敬」と笑いを収めた彼の手が、エマの頬に触れた。

「面白い分析です。だが、私の目に映るエマさんは可愛らしく、存在感もありますよ。竜に騎乗して空を飛んでいても、眼下にあなたがいれば気づくでしょう」

「ダグラス様……」

エマは胸の高鳴りを押さえられない。