「モリンズ伯爵のご令嬢様、いらっしゃいませ。いつもご贔屓にしてくださいまして、誠にありがとうございます」

手揉みしながら出迎えてくれたのは、頭髪の薄い壮年の店主だ。

レミリアは新しい本も買うけれど、それだけでは足りず、掘り出し物を求めてここへ来るのを好む。

「店主さん、探してくださいとお願いしておいた本はあるかしら?」

「それがですね、あちこち問い合わせてもまだ見つからず……もう少々お時間をください。その代わりと申しますか、お嬢様のお好みに合いそうなものを二冊取り置いておきました」

なかなか年季の入った革装丁の分厚い本と、可愛らしい絵柄の紙装丁のものを、店主が差し出す。

「革表紙の方は、絶版となって今では入手困難な英雄伝です。いささか俗ではありますが、こちらの紙の方は恋愛ものにございます。女性にはお喜びいただけるかと」

「英雄伝。去年まではまっていたけれど、今はそんなに興味はないのよ。でもせっかくだからいただくわ。恋愛ものは、喜んで買わせてもらいます」

店主とレミリアのやり取りを、エマは一歩後ろから見守っている。