翌日は朝から雨が降っていた。

モリンズ伯爵邸の一階、東側の食堂には、家族四人が集う。

モリンズ伯爵夫妻と、双子令嬢だ。

伯爵夫妻は四十になろうかという年齢で、白髪もなく、まだ充分に若々しい。

十九歳になる息子もいるが、昨年結婚して妻とふたり、王都から遠く離れた領地の管理を任せているので、この屋敷には住んでいない。

エマはメイドと一緒に朝食の給仕をしている。

焼き立てのパンとスープ、ベーコンエッグと温野菜を出したあとは、静かに壁際に控える。

伯爵一家の話題は、シンシアの結婚についてだ。

昨日、婚約者のブライアンから豪華なネックレスが贈られたことを報告したシンシアに、両親は目を細める。

「シンシア、お前は自慢の娘だ。モンタギュー公爵家と親戚付き合いができれば、私の発言力も高まる。今日は定例会議で王城に出向くのだが、きっと貴族たちが私のところに挨拶しに集まるだろうな。鼻高々だ」

「お父様のお役に立てて嬉しいです。でも私、お家柄ではなく、ブライアン様のお人柄に惹かれて結婚を決めたのよ。誠実でお優しい方ですから」

「そうですよ、あなた。嫁ぐ前から権力の話など、シンシアにしないでください。夢いっぱいの幸せな時ですのに」

「これは悪かった。そうだな。恋に生きるのが可愛い女だ。好いた相手と一緒に暮らせることに幸せを感じるだけでよい」

声を上げて笑い、上機嫌な伯爵であったが、シンシアの隣の席に視線を移して眉を寄せた。

「レミリア、お前は誰か気になる男はいないのか?」

「はい。いません」