一緒に外出できない理由に手紙を書くからと言ったシンシアだが、午前中にブライアンから贈られてきた豪華なネックレスに対するお礼状であろう。

貴族女性としての礼儀や常識、教養もしっかりと身に着けているシンシアに、なにも不安はない。

求婚どころかデートの誘いひとつないレミリアの方には、エマの心配は尽きないが……。

「エマ、行くわよ。もたもたしないで」

(レミリア様のお支度が整うのを待っていたのは、私の方なんですけど……)

レミリアとエマは歩いて目的地に向かう。

モリンズ伯爵は領地と王都にそれぞれ屋敷を構えており、ここは王都の中心部に近い場所だ。

馬車を使うまでもなく買い物が楽しめる通りまですぐに出られて、なにかと便利である。

ふたりはメインストリートの一本裏道に入った場所に建つ、老舗古書店のドアをくぐった。

レミリアの趣味は読書。

本を読むのはいいことだが、お茶会やサロンパーティー、晩餐会などの他貴族との交流をことごとく拒否して趣味に没頭するのはいただけない。

上手に人付き合いをしているシンシアとは、ここも異なる点である。