覗き穴に目を押し付けているエマは、レミリアの成長に胸打たれていた。

(ひねくれ者の引きこもりで、貴族令嬢としての努力もせず、本の世界にばかり逃げていたレミリア様が、王太子殿下を相手に立派に闘っている。時間がなかったから、大雑把にしかアドバイスできなかったのに……)

エマがレミリアに指示したのは、これだけだ。

『大嫌いと罵ってください。傷つけて怒らせるんです。王太子殿下の心を揺さぶり本音を引き出すためにです。その後は殿下の立場に同情して励ましてあげてください。この人を失いたくないと思わせることができたら、きっと……』

こまかな台詞の打ち合わせはないのに、レミリアが優勢に立って王太子を攻めている。

口論するなど、苦手分野のはずなのに。

もしかするとエマが身代わりになるなどと言ったから、必死に頑張ってくれているのかもしれない。

王太子を充分に傷つけたところで、レミリアは急に声を優しくした。

「でも……臆病になるのもわかるんです。弱みを握られているのは怖いですよね。わたくしもあなたの脅威にはなりたくありません。だから処刑を受け入れます。あなたの心の平穏のために」