転生侍女はモブらしく暮らしたい〜なのにお嬢様のハッピーエンドは私に託されているようです(汗)

エマの頭から爪先までに視線を流し、その汚れてやつれた容姿に顔をしかめた騎士は冷たく言い放つ。

「あいにく団長は不在だ。帰れ」

その態度を見る限り、詰所内にいるのに追い払おうとしたことが窺えた。

それでエマは嘘をつく。

「私はダグラスの妻です」

「えっ?」

普段なら自分ごとき地味なモブ侍女は、恋も結婚も縁遠いものとして謙虚に振舞うのがエマである。

けれども今は、ダグラスに迷惑が及ぶことを気にしてはいられない。

若い騎士はダグラスが独身であることを知らなかったのだろう。

「失礼しました」

エマの嘘を信じて姿勢を正すと、団長室まで案内してくれた。

彼がノックすると、「入れ」というダグラスの声がした。

若い騎士が開けたドアから室内が見える。

飾りけのない実用的な執務室で、ダグラスは机に向かい、書類のようなものを読んでいた。

その視線がドアに向き、若い騎士に「なんだ」と要件を問う。

「奥様がお見えになられています」

「は……?」

眉間に皺を寄せたダグラスに妻はいないと言われる前に、エマは若い騎士を押しのけて前に出た。

「エマさん?」