それによってレミリアは、緊張しつつも楽しむ余裕があったそうだ。

「なにが問題だったんですか?」

腰を落としたエマがレミリアの顔を覗き込む。

「途中で従僕の方が入ってきたの。青バラを生けた花瓶を持ってきて……」

路地植えの花の時期は終わっているが、温室の中の青バラはまだ花を咲かせているらしい。

以前、王太子がレミリアに花束を贈ったから、王城庭師はレミリアが青バラ好きだと知っていた。

それでよかれと思い、従僕に青バラの花瓶を持って行かせたそうだ。

その心遣いをレミリアは喜んだが、なぜか王太子が怒り出し、従僕の手から花瓶を叩き落としたという。

「お優しい方だと思っていたのに……」

王太子は従僕を追い出してから、落ちているバラを一輪拾い上げた。

それを憎らしげに睨みつけたと思ったら、グシャリと握り潰した。

棘が刺さり、手のひらに血がにじんだのを見て、レミリアは慌てて自分のハンカチで手当てをしたのだと話してくれた。