馬車が敷地内に入ってきた音が聞こえ、続いて玄関ドアが開けられた音もした。
厨房で調理を手伝っていたエマは、急いで玄関ホールに向かう。
「レミリア様、お帰りなさいませ!」
「ただいま……」
のぼせ顔で帰ってくるだろうと思っていたのに、レミリアはしょんぼりと肩を落としている。
帽子と手提げバックを受け取ったエマは、不安げに問いかける。
「なにかあったんですか?」
「うん……」
「聞かせてください」
二階のレミリアの部屋に引っ張っていき、椅子に座らせた。
レミリアはため息をついてから、王太子とのティータイムを話してくれた。
場所は王城の南棟にあるサンルーム。
丸テーブルに白いレースのテーブルクロスがかけられ、三段の銀のスタンドにはティーフーズが美しく並んでいた。
部屋を飾るのはコスモスやダリア、金木犀などの秋の花。
王太子のプライベートなティータイムを共にできる女性は、そう多くはないだろう。
向かい合ってお茶を飲みながらの会話は、レミリアの得意な刺繍や最近読んだ本のこと。
口下手なレミリアでも話が弾むように、王太子がふってくれた話題だ。


