「ここへ来られたということは、お悩みでいらっしゃるのですか?」
王太子は真顔で黙ってから、作ったような笑みを浮かべた。
「悩みはない。今日は誓いを新たにするためにここに来たんだ。俺はいずれ国王になる。国土と臣民を守り、平和で幸せな国をつくる。それが、俺が王家に生まれた使命だと……信じている」
(なんてご立派なのかしら。でも、なんだか苦しそう。青い瞳が不安げに揺れている……)
レミリアはなんと声をかけるべきかと考えていた。
本当は悩みがあるのでしょうと指摘して、打ち明けてくださいとお願いするべきか、それとも頼もしいと褒めるべきか。
頭に浮かんだのは、昨夜のエマとの特訓だ。
恋愛の勉強だと言ってパペット人形を両手にはめたエマと、こんなやり取りをした。
『殿方が己の信念を熱く語ってきました。さて、こっちのレミリアちゃん人形はなんと返すべきでしょうか』
『そうなんですか、ご立派ですね』
『そんなつまんなそうに言ったら嫌味に聞こえますよ。今回は頷くだけでなにも言わないでください』
『それだけでいいの? それなら私でもできるわ』


