「エマは下で待っています。高所恐怖症で上れないと言われたんですけど、本当は違うと思います」

王太子がフッと笑った。

「エマさんは、君と私の仲を深めようと一生懸命だな」

「は、はい……」

急に恋愛に繋がる話をされて、レミリアは動揺した。

恋の物語は楽しんで読書できても、ウブすぎるほど奥手でコミュニケーション能力も低い。

どう返していいのかわからなかった。

ただひとつわかっていることは、王太子に惹かれている自分の気持ちだ。

(これが恋というものかしら。でも私はシンシアより可愛くないし、色々な能力が不足しているわ。王太子妃に選んでもらえない……)

真っ赤な顔でうつむけば、肩を抱かれた。

「えっ……」

並んで海と逆側を向かされ、「見てごらん」と促される。

「ここから王都の街並みがよく見える。俺は壁にぶつかった時や迷いが生じた時、ここへ来て街を眺めている」

彼が自分を“俺”と呼ぶのを初めて聞いた。

素顔を見せてくれたような気がして、レミリアはくすぐったい喜びに包まれる。

(もっと、この方のことが知りたいわ……)

そのような欲求に駆られて、勇気を出して話しかける。