「そ、そんなにすごいものではないんです……」

魔力など一切ないのに嘘をついて申し訳ない気持ちになる。

曖昧に笑って賛辞を受け流したら、急に彼に抱き着かれた。

「えっ?」

「ありがとう。俺たち兄弟は仲が悪くて、末の俺は子供の頃、よく泣かされてた。今でも会えばなにかと馬鹿にするようなことを言ってくる。けどこれでやっと積年の悔しさを解消できそうだ。俺が怪盗になってまで父の宝を見つけたかったのは、兄たちを見返してやりたかったからなんだ」

エマの頬に当たるのは、ジェラルドのタキシードの胸元。

細身ながらしっかりと男らしい筋肉の質感が衣類越しでも伝わってくる。

胸はときめき、顔が火照って仕方ないエマだが、それ以上に彼の抱えている兄弟間の確執に胸を痛めていた。

(由奈に疎まれていたことを知った時はショックだった。私の死を今は悲しんでくれているようだけど、できることなら前世で生きていた時からお互いを大切に思いたかった。だからジェラルドには、お兄さんたちと和解してほしい……)

それは単なる願いで終わらず、叶えられるはずである。