「教えがいがありそうだ」と囁いた彼の声はゾクリとするほど艶めいて、熱い吐息が首筋にかかった。

その時……「エマ、どこなの?」というレミリアの声が廊下から聞こえた。

この部屋の前を通り過ぎる足音が聞こえ、続いて「バルコニーにご案内いたしました」と説明する執事の声もした。

「レミリア様が私を探していますので、失礼いたします!」

エマは伯爵の腕を振りほどくと、ドアまでの数歩を走った。

ドア口で振り向いて深々と一礼し、それから急いで廊下に出る。

頬の熱は引かないが、自分が恋愛している場合ではないという思いに揺らぎはない。

(ヒロインはレミリア様なのに、私が迫られてどうするのよ!)

レミリアを追いつつ、心で叫んだエマであった。