「無理をしてまで奥様の最期の願いを叶えなくてもよろしいのではないでしょうか。奥様は伯爵様に他の女性と恋をしてもらいたいわけではないと思うのです。ただ独り身のあなたを心配されただけで。伯爵様のお心にはいつも奥様がいらっしゃいます。ひとりぼっちではありませんよ」

言い終えてから、正しい選択肢を選んでしまったことにハッと気づいてうろたえる。

これ以上、話してはいけないと思い、伯爵の胸を両手で押して距離を取ると、背を向けた。

拒否の気持ちを態度で示したというのに、今度は後ろから抱きしめられる。

「主君を気遣っておいでですか? エマさんはお優しい。まるでセシルのようです。そうだったのか……レミリア嬢との出会いから今に至るまで、全てがセシルの導きなのだ。なかなか次に踏み出せない私に、エマさんと恋をさせるための」

「ち、違うと思います……」

「簡単には落ちてくれないようですね。それもいい。ゆっくりとあなたの心を溶かす楽しみがありますから」

バルニエ伯爵がエマの赤茶の髪を梳いて、その指先をうなじに這わせた。

エマはビクッと肩を揺らす。