選択肢はエマにしか見えないものなので、驚いているのもエマだけだ。

目を丸くしているエマに、バルニエ伯爵がクスリとする。

どうやらなにかを勘違いしたようで、エマの腕を引いて、その胸に抱きしめた。

さらに驚いていると、耳に渋みと色気を感じさせる声が響いた。

「ウブだね。逃げようとすると追いたくなるというのが男ですよ」

甘い香りは龍涎香だろうか。

ピジョンブラッドのブローチを見つめながら、エマは初めて男性に抱きしめられた衝撃で固まるのみ。

けれども、まさか自分が迫られるとは思ってもみなかったので、心の中は大忙しだ。

(レミリア様は十六歳で若すぎるから手を出せないの? いやでも、私だって十八で、伯爵よりかなり年下だよ。地味顔のせいで落ち着いているように見えるのかもしれないけど)

「あああ、あの……」

激しい動揺の中、自分相手に過ちを冒されては困ると焦ったエマは、うっかり回答してしまう。