バルニエ伯爵が驚いたように振り向いて、足早にこちらへ来ると大きくドアを開けた。
「エマさんでしたか。これは恥ずかしいところを見られてしまった」
嘆息した彼と目を合わせられず、エマはうつむく。
「覗いてしまい、申し訳ございません……」
「いや、怒っているわけではないですよ。隠したい部屋でもない。エマさん、どうぞ中へ。妻を紹介しましょう」
促されて戸惑いつつも、エマは足を踏み入れる。
壁に掛けられた肖像画はバラの花束を抱えた夫人で、二十代後半に見えた。
透き通るように白い肌と細い体。
水色の瞳は優しげに細められ、その微笑はどこかはかなげだ。
「妻のセシルです。貴族の出自ではないことを気にしていたのですが、私にはもったいないほど清らかで美しい人でした。亡くなる前、セシルが苦しい息の下で言ったんです。病弱であなたの子を産めず申し訳なかった。どうか若い娘を娶って子を成してください。ひとりぼっちはいけませんよ……と」
肖像画の妻と視線を交えてそう言った伯爵に、エマは涙を流した。
「エマさんでしたか。これは恥ずかしいところを見られてしまった」
嘆息した彼と目を合わせられず、エマはうつむく。
「覗いてしまい、申し訳ございません……」
「いや、怒っているわけではないですよ。隠したい部屋でもない。エマさん、どうぞ中へ。妻を紹介しましょう」
促されて戸惑いつつも、エマは足を踏み入れる。
壁に掛けられた肖像画はバラの花束を抱えた夫人で、二十代後半に見えた。
透き通るように白い肌と細い体。
水色の瞳は優しげに細められ、その微笑はどこかはかなげだ。
「妻のセシルです。貴族の出自ではないことを気にしていたのですが、私にはもったいないほど清らかで美しい人でした。亡くなる前、セシルが苦しい息の下で言ったんです。病弱であなたの子を産めず申し訳なかった。どうか若い娘を娶って子を成してください。ひとりぼっちはいけませんよ……と」
肖像画の妻と視線を交えてそう言った伯爵に、エマは涙を流した。


