ここはモリンズ伯爵邸。

ライムグリーンのワンピースに同色系の鍔広の帽子をかぶり、出かける支度をしているのは、エマ・サノーマンだ。

赤茶のストレートの髪は肩までの長さで、やや細身の中背。

丸顔という点以外、顔の造作に特筆すべき点のない、その他大勢に埋もれてしまいそうな十八歳である。

「私はこれからレミリア様のお伴で外出します。メイドの皆さんは、届いた荷物の仕分けをお願いします」

不在の間の仕事をメイドに頼み、エマは広い玄関ホールで振り向いた。

後ろには二階へ続く階段がある。

上から靴音が聞こえ、若い娘ふたりが下りてきた。

モリンズ伯爵家の双子の娘、シンシアとレミリアだ。

十六歳のこの双子令嬢の面倒をみる侍女は、エマひとりである。

「レミリア様、新緑の眩しい春ですのに、なぜ濃い紫色のデイドレスを選ぶんですか。帽子まで暗い色。やっぱり私が選んで差し上げればよかった」

「春に濃い紫がいけないと誰が決めたのよ。服も髪もメイクも、なんでも自分でできるわ。エマの手伝いは不要よ」