「俺はそこまで我慢出来るほど出来た人間じゃないんだよね」
囁きながら、意図も簡単に私の手を抑える。
「本当はずっと触れたかった──」
呼吸さえ忘れた私はそれ以上なにも出来ず、このまま無抵抗でいたら、キス……される、と思った。
「今だけはアイツのこと忘れてよ。俺のものでいて」
「……いや……、」
ギュッと強く目を閉じた直後──
「……無礼な真似はお辞めください! 」
廊下から響く声と大きな足音に、パッと目を開いた。
「いくら音無家に仕えている方とはいえ、この先は立ち入り禁止ですから……っ!!」
なにやら、部屋の向こうが騒がしいような……。
それに今、音無家って聞こえた気がする。
──ドタドタドタドタッ!
「……っ、!?」
──バンッ!!
突然、ものすごい勢いでこの部屋のドアが開いた。
それはもう、ドアを破壊するレベルで。



