ぜんぶ欲しくてたまらない。




「今日の夕飯なーに?」



いつものようにキッチンを覗き込んでくるコウくん。



「ボロネーゼ作ろうと思って」


「へぇー」



自分で聞いておいて返事は素っ気ない。


コウくんは元からそうだから、特に意味はなく逆に普通に答えているだけだと思うんだけど。


だから、わたしも気にしない。



「ねぇ、袖汚れちゃうよ?」


「ひゃぁっ!?」



突然耳元からコウくんの声がして、体がピクンと反応する。



「そんな可愛い声出してどうしたの?」


「か、可愛くなんか……!」



可愛いというよりは、自分の声じゃないくらい変な声。



「ほら、袖まくんないと」


「……ありがと」



手の離せないわたしの代わりに、コウくんが落ちてきてしまっていた袖をくるくるとまいてくれた。


わたしを包み込むように後ろから腕を伸ばしてくるコウくん。


背中から伝わってくるコウくんの熱。


肩の上に乗ったコウくんの顔、聞こえてくるコウくんの吐息。


袖をまくるときに触れるコウくんの綺麗な指。


頭の中がコウくんでいっぱいになって思考が停止してしまう。