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「芽依っ!」
屋台の方へと戻ってきたけれど、これまでの道のりの中に芽依の姿はなかった。
「ったく、どこにいるんだよ……」
本人に自覚は全くないが、芽依は可愛い。
照れくさくて口になんて出して言えないけど、今日の浴衣だってめちゃくちゃ似合ってた。
アップヘアも似合いすぎだ。
もしかしたらナンパに捕まって、抵抗できずに連れていかれているかもしれない。
そんな最悪な状況だって浮かんできてしまう。
早く、芽依を見つけないと。
芽依ならどこに行く……?
思い出せ。
迷子になった芽依はいつもどんなところにいた?
芽依はいつも───入口に戻ろうとして真逆に進んじゃうような奴だった。
俺はぐるりと方向を変えて奥へと進んでいく。
そこに人影を見つけた。
暗くてよく見えないけど、あれは絶対に芽依だ。
「め……っ」
人影は一人だけじゃない。
アイツは───最近、芽依と仲良くしている奥田だ。
なんでアイツが?
芽依は奥田に抱きついているように見える。
あぁ、そういうことか。
俺はもう用無しだ。
芽依に近づく資格もない俺は、このまま引き下がるべきだと思う。
これでよかったんだ、多分。
俺の中で唯一繋がっていた細い糸がプツンと切れた音がした。



