ぜんぶ欲しくてたまらない。




「うん、ごめん。引っ越してきたばっかで疲れたから帰る」


「あっ……うん、また明日」



コウくんは何となくどこか遠くを見ているようだった。


そのせいか、わたしとコウくんの距離はあんなに近かったはずなのに、間に突然壁ができてしまったみたいに遠く感じた。


昨日戻ってきたばっかりなら移動とか荷解きとかいろいろで疲れてるよね。


少ししか話せなかったけど仕方ないかも。


でも、芽依って名前だけでも呼んで欲しかったなぁなんて。



「久しぶりの再会だっていうのに素っ気ねぇな、航大のやつ」


「仕方ないよ。それにまた明日から会えるから」


「芽依ちゃんは心が広いね。あ、俺まだ航大に話したいことあんの忘れてた。じゃ、またね芽依ちゃん」


「うん、またね」



ニコッと女の子を瞬時に落としてしまいそうな笑顔を残して、須藤くんはコウくんの後を追っかけて行った。


わたしもコウくんの後、追っかけて行ったら良かったかな。


きっと、須藤くんだってコウくんのたくさん話したいだろうから、今日は潔く諦めよう。


もっともっと欲を言えば……



「一緒に帰りたかったな」




───あの頃みたいに。




コウくんの新しいお家はどこだろう。


またお隣さんならいいのにな。