ぜんぶ欲しくてたまらない。




「ねぇ芽依ちゃん、あれ一緒に乗らない?」



外に出て奥田くんが指さしたのは水族館に併設されている観覧車。


コウくんとふたりで乗った観覧車。



「……うん、いいよ」



場所は違えど、観覧車を見れば思い出す。


あの時、ちゃんとわたしが奥田くんみたいに気持ちをコウくんに伝えられていたら。


もしかしたら今、違っていたかもしれないのに。


ううん。

でも今は奥田くんと一緒に来ているんだから。


コウくんのことは忘れなきゃ。


ほら、さっきまで忘れられてたじゃん。


今を楽しむんだよ、わたし。


心の中で自分に喝を入れて、観覧車に乗り込んだ。



「この観覧車少し小さめだからすぐに一周しちゃうかもね」


「うん、でも高台にあるから景色は綺麗かもよ?」



話しかけてくれる奥田くんに、わたしはちゃんと返事をできているだろうか。


幸か不幸か、わたしたちの順番で回ってきたのはあの日と同じ赤色のゴンドラ。



───やっぱり忘れられないよ。