ぜんぶ欲しくてたまらない。




コウくんは一瞬だけこちらを見て、すぐに視線を逸らした。


絶対わたしたちに気づいているはずなのに。


まるで何も見なかったかのように自分の席へと向かうコウくん。



「……今日、バイトじゃなかったっけ?」



無言でいるのが気まずくて、席に座ったままコウくんに声をかける。


そういえば、コウくんと話すなんて久しぶりかもしれない。


ずっとお互いにお互いを避けてきたから。



「忘れ物取りに来ただけ。すぐ行くよ」



もしかしたら無視されてしまうんじゃないかって、すごくドキドキしていた。


素っ気なく棒読みみたいな返事だけど、返してくれたことが嬉しい。


わたし、コウくんと話せてる。



「そっか、頑張ってね」


「ん。…奥田が教えてくれてよかったね」



無事に忘れ物が見つかったのか、再びカバンを肩にかけてドアへ向かうコウくんが、こちらを見ずに言った。



「奥田も、芽依よろしく」


「……お、おう」



コウくんは最初に目が合ってから、一度もこちらを見ないまま教室を出て行ってしまった。